AUTOSAR Adaptive Platformとは

AUROSAR Adaptive Platformの必要性

「コネクテッド(Connected)」「自動化(Autonomous)」「シェアリング(Sharing)」「電動化(Electric)」という4つの進化軸を総称した「CASE」の実現に向け「百年に一度」と呼ばれる大変革の只中にあり、先進運転支援システムや自動運転システムの需要が高まっています。
これらのシステムでは、先進的かつ多様なセンサー情報の取扱い、サービス指向の動的な通信の必要性、外部接続の拡大に伴うセキュリティの確保、無線による(over-the-air)アプリケーションのアップグレードなどが求められており、現在車載OSの主流となっている AUTOSAR Classic Platform(以下CP) では変化する多様なニーズに対応していくことが難しくなってきました(図1)。

図1. 変化する多様なニーズ

図1. 変化する多様なニーズ

そこでAUTOSARコンソーシアムより、2017年3月に標準化ソフトウェアプラットフォームとしてAUTOSAR Adaptive Platform(以下AP) がリリースされました。

AP(AUTOSAR Adaptive Platform)の特徴

APは、高度な自動運転を始めとする、高機能かつ高性能で極めて高いパフォーマンス要求をサポートするソフトウェアプラットフォームです。代表的な特徴を挙げます。

APの特徴1

Planned Dynamicsの採用

静的な振る舞いを規定することが基本というCPの考え方に対して、APでは提供するサービスやその要求が変化するたびにスケジューリングを動的に変えるスケジューリング方式や、サービス指向通信を代表とした動的な振る舞いを管理するポリシーが採用されています。

APの特徴2

SOA(Service-Oriented-Architecture)の採用

機能を"サービス"として扱うとともに物理的なシステム構成や通信プロトコルを仮想化し、サービスに対してインターフェースを提供するソフトウェア基盤を採用することで、システム設計の柔軟性を高めています。

APの特徴3

ソフトウェアの部分的なアップデートが可能

無線による(over-the-air)ソフトウェア更新機能を介して、アプリケーションのアップグレードや新たなソフトウェアを後から追加することが容易になることで、車両のライフサイクル全体を通じてソフトウェア更新や故障時の手間・時間・労力をカットでき効率化に繋がるとされています。

CP (Classic Platform)との違い

  Adaptive Platform Classic Platform
構造
OS POSIX PSE51ベース OSEK / VDX OSベース
メインとなる通信方式 サービス指向通信 シグナル通信
開発言語 C++ C
アプリケーションの
実行手段
ROMなどからRAMにロードして実行 コードをROM上で直接実行
実行時の
ソフトウェア更新
可能 不可能
タスクの
スケジューリング
動的なタスクスケジューリング 固定されたスケジューリング
リアルタイム性 高い(ミリ秒単位) 非常に高い(マイクロ秒単位)
演算能力 高い(> 20,000 DMIPs) 低い(~ 1000 DMIPs)
メモリ空間 アプリケーションごとに
アドレス空間を用意して実行
同じアドレス空間で
アプリケーションを実行
安全要求 最低でもASIL B 最大でASIL D

APの登場に伴いCPが置き換わるのか?というとそうではなく、適材適所、共存するとされています。例えば発生頻度の高いイベントを処理する場合は従来通りCP の方が適していますし、自動運転システムのような極めて高いパフォーマンスが必要となる場合はAPが適しています。また高いレベルの安全要求を満たすためには、CP搭載ECUと AP搭載 ECUとを組み合わせて実現することが想定されています(図2)。

図2. CPとAPの共存

図2. CPとAPの共存
出典:AUTOSAR: “Explanations of Adaptive Platform Design”, R19-11

AP導入時の課題

CPとの違いを見てきましたが、サービス指向通信やPOSIX準拠OSの採用といった新しい技術要素が出てきています。APを導入するにあたって困り事になりそうな点について弊社のアプローチをご紹介致します。

事例1

サービス指向通信を表現するビット割当表設計

AP搭載ECUではアプリケーションの切替が想定されています。そのため、アプリケーションの切替に対応できる汎用的かつ動的な通信を実現する必要があります。CP で使用されている CAN や LIN といった通信プロトコル用ビット割当をベースに、AP で使用される SOME/IP に対応できるビット割当を設計しました。

【 設計手順 】

[1]AUTOSAR Runtime for Adaptive Applications(以下ARA) よりCommunicationManagerといったサービス指向通信に関わるARAより、コンフィグレーションパラメータから通信要素を確認します。

[2][1]で抽出した以下のパラメータをCPのCAN通信メッセージのビット割当表に対応させました。

Service Discovery:動的な通信の確立するための機能を実現するための要素

宛先、使用するプロトコル、サービスID、時間制約等

Event:メッセージ送受信を実現するための要素

Method:他アプリケーションの関数呼び出しを実現するための要素

Field:他アプリケーションのパラメータのSet、Getを実現するための要素

イベントID、メソッド名、取り扱うデータの型、サイズ、バイトオーダー等

事例2

POSIX準拠OS起動までのスタートアップ処理の設計

CP搭載ECUで実施しているBOOT処理やスタートアップ処理はAP搭載ECUではどこでどのような処理を実施すべきかAUTOSAR SWS等仕様書には明確な情報はありません。そこで弊社ではPOSIX準拠OS起動以前のAPのスタートアップ処理について調査、整理しました。

【 設計手順 】

[1]POSIX準拠OS、VM特有処理の抽出

既存のPOSIX準拠OS使用システムやVMを使用したシステムの過去開発実績より起動に必要な処理や実行順序を抽出しました

[2]AP特有処理の抽出

ExecutionManagerといったAPの起動に関わるARAより起動に必要なスタートアップ処理を整理しました。
ただし直接該当する仕様はないため、仕様よりスタートアップ処理とされるものをリストする形としました。

[3]ECUとして必要な処理のリスト

CP搭載ECUの過去開発実績よりBOOT処理やスタートアップで必須となる処理や実行順序をリストしました。

[4]AP搭載ECUのスタートアップ処理を検討

[1]、[2]、[3]のリストから、AP搭載ECUのスタートアップで必要な処理、実行順序をまとめました。


CP 搭載 ECU 開発で培った技術や経験を活用することによって事例のような AP での新たな課題を初期段階で整備し、AP のコンフィグレーション・インテグレーションを始めとしたソフトウェアプラットフォーム開発までの AP 導入ソリューションを提供しています。

株式会社ヴィッツは、AUTOSAR associate partners です。
https://www.autosar.org/about/current-partners/associate-partners/

APの構造

User Application、AUTOSAR Runtime for Adaptive Applications(以下ARA)、Virtual Machine/Container/Hardwareで構成されます(図3.)。それぞれのレイヤとソフトウェアブロックに触れ、仕様概要の説明をします。

図3. AUTOSAR Adaptive Platformのアーキテクチャ

図3. AUTOSAR Adaptive Platformのアーキテクチャ

User Application

Adaptive Application(AA)と呼ばれるAPに準拠したApplicationとNon-PF Serviceと呼ばれるAPを使用しないApplicationの2種類に分けられます。

ARA (AUTOSAR Runtime for Adaptive Applications)

ARAは15個の機能 (Functional Cluster、以下FC) で構成されています。
User ApplicationはFCを使用してサービスを実現します。

ARA内の緑枠

APが提供するAPI で「Adaptive Foundation」に分類されるFCです。
Adaptive Foundation のFCは、Direct APIを使用して直接アクセスを行います。

ARA内の橙枠

APが提供するサービスで「Adaptive Services」に分類されるFCです。
Communication Management (ara::com) がAdaptive Servicesを使用するためのインターフェースを提供します。 (基本サービスとユーザーアプリケーション)

Machine、Container、Hardware

Adaptive Platformを動作させるための資源です。

AUROSAR APの仕様について

ARAのFC仕様について触れる前にAUTOSAR仕様書体系はAUTOSAR(https://www.autosar.org/)には、CP仕様、AP仕様、CP/AP共通仕様「Foundation」という体系でStandardとしてまとめられており、無料でダウンロードできるようになっています(図4.)。

図4. AUTOSAR Platformの仕様書体系

Classic PlatformBSWやRTEのレイヤーやMCALの仕様などCPに関連するドキュメントが分類されます。
Adaptive PlatformARA内のFCの仕様やAdaptive Applicationへの制約などAPに関連するドキュメントが分類されます。
Foundation共通要件やMethodology、用語集だけではなく、SOME/IPやDDS、Log & TraceのプロトコルなどPlatform間で共有する必要がある技術仕様などが含まれています。 ※AUTOSAR Platform間の相互運用性を高めるため

図4. AUTOSAR Platformの仕様書体系

Adaptive Platform内のドキュメントは5種類に分類されており、APの全体概要や各FCの仕様以外にもAPを実現するための方法論が記載されたドキュメントなどが用意されています(図5.)。

図5. Adaptive Platforms仕様のドキュメント構成

Release
Documentation
ドキュメント構成などのリリースに関連するドキュメント
Adaptive
Foundation
APの基本機能(ライブラリ)に関連するドキュメント
Adaptive
Services
APの基本サービスに関連するドキュメント
Methodology and
Manifests
APを実現するための方法論や方針が記載されたドキュメント
GeneralAPの全体の概要や概念、AP開発で共通する仕様などを記載したドキュメント

図5. Adaptive Platforms仕様のドキュメント構成

ARAのFC仕様はAPI「Adaptive Foundation」とサービス「Adaptive Services」にまとめられています。FC仕様概要は以下です。

Adaptive Foundation FC仕様概要
Communication Management AA間 / Machine間の通信を行う役割を持ちます。
SOME/IPやDDS、IPC、シグナルベース通信を行うための機能を提供します。
RESTful CM同様に通信を行う役割を持ちます。
AUTOSARではないApplicationとの通信を行うための機能を提供します。
Time Synchronization AA間やECU間の時間情報を同期する機能を提供する役割を持ちます。
Diagnostics 診断サービスの実行と診断結果を管理する役割を持ちます。
Persistency 不揮発性メモリに情報を格納するためのメカニズムを他FCや
Adaptive Applicationへ提供する役割を持ちます
提供する以外にはデータの破損検出やデータの暗号化を行うことができます。
Platform Health Management 他FCやAdaptive Applicationの動作監視及び復旧動作を実行する役割を持ちます。
監視方法は4種類存在し、個別に動作させることも可能です。
Log & Trace ログ情報を記録 / 管理する役割を持ちます。
ログ情報の管理以外にネットワーク上へログ情報の送信を行うことができます。
Core Types 他FCで使用されるエラー関連のクラスやFCの初期化やシャットダウンの実行など
汎用的なクラスと機能を提供する役割を持ちます。
Execution Management 他FCやAdaptive Applicationの起動/シャットダウンを管理する役割を持ちます。
OS起動時にEMが開始され、開始後にEMがAdaptive Foundationの
他FCとApplicationを起動します。
Cryptography データの暗号化や暗号キーを管理する役割を持ちます。
Cryptographyの実行時にデータの暗号化と暗号キー生成を行います。
Identity Access Management Adaptive Application(AA)がARAにアクセスするための権限を管理する役割を持ちます。
AAがリソース要求を行い、その要求に対してIAMはAAの機能が十分であるか
チェックしてアクセス権を付与するか、しないか決定します。
Adaptive Services FC仕様概要
State Management スケジュール管理を行い、EMに実行命令を行うサービスを提供します。
Network Management SMと連携して通信の開始/終了を管理するサービスを提供します。
Update and Configuration Management ソフトウェアの更新に関わるサービスを提供します。
ソフトウェアのバージョン確認、更新に必要なリソース確認、更新データの受信、
アップデート処理、ロールバックを行います。

FCに関連するドキュメントとは別にAP全体に関わる内容についてまとめているドキュメントが「Methodology and Manifests」と「General」に分類されています。
以下で分類ごとに記載される一部のドキュメントについて概要を記載します。

Methodology and Manifests に分類されるドキュメントの概要
Adaptive Methodology AP開発の方法論がまとめられています
AUTOSARの方法論はFoundationのMethodologyにまとめられています。
Abstract Platform Specification AUTOSAR Platformの抽象的な設計仕様が記載されます。
Generalに分類されるドキュメントの概要
Platform Design APの全体概要や各FCの概要がまとめられています。
Adaptive Platform Interfaces Guidelines Adaptive Applicationを作成する際のガイドラインがまとめられています。

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